先日、六本木ヒルズのクリスマスマーケットの帰り、15年ぶりに飯倉片町の「ヴァンサン」で食事をした。同店のシェフの城悦男さんは銀座の名店「レカン」のシェフを16年務めた方だ。既に還暦を過ぎているのに、今でも1日18時間お店で仕事をされているそうだ。平均睡眠時間は5時間。他の有名フランス料理家とは違い、安易な多店舗展開はせず、城さんは飯倉片町の自分のレストランのテーブルとお皿をしっかりと見守っている。そんな料理がおいしくいただけないわけがない。15年前のぼくには「ヴァンサン」の料理はただおいしいだけだったけど、この年になって改めていただくと、意思をもってつくられる料理というのは文学作品に近いと思った。ごちそうさまでした。コンソメスープは気が遠くなるくらいおいしかった。デザートの後のお茶の代わりに、このコンソメを「ブッフティー」と呼んで頼む常連客もいるそうだ。

フランス料理の料理人は本当に大変だ。覚えなければならないことが山積みで、何事も時間がかかる。外国語の読解力も求められるし、聖書の知識も必要になることがある。しかも知識だけではどうしようもない。経験を積まないと学べないことも多いはずだ。センスだけはどうしようもできない部分もある。普通の社会で取り返しのつかないことは、そうあるものではないけど、家庭料理はともかくレストランの料理は常に「取り返しがつかない」ことと背中合わせだ。なぜなら料理は後戻りができないから。本当に厳しい。そんなわけでフランス料理の料理人は、料理を学ぶ若い人たちには敬遠されているらしい。