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アール・デコ・リバイバル [デザイン/建築]

昨年末、VOGUE NIPPONにアール・デコの原稿を書きました。

「1925年様式」。これがアール・デコ様式の別の呼び名だ。アール・デコは同年にパリで開催された装飾美術・工芸美術国際博覧会(アール・デコ展)で、人々の心をとらえたスタイルだった。その特長は、光沢と硬質を感じさせる連続するパターンや、電波や光線の反射・放射をイメージさせるジグザグ曲線と放射状の造形、スピードの表現……などが挙げられる。当時、電気による人工光によって生み出された都市のナイトライフと、その陰影に映える明快な装飾でもあった。

19世紀末に西欧の王侯貴族が没落し、工業化社会で財をなした中産階級が隆盛すると、富は都市に還流し、貴族文化とは違う市民の都市文化が育まれていく。都市文化の最初の自己表現が19世紀末のアール・ヌーヴォーであるとすれば、アール・デコは都市消費文化の最初の表現と言えるだろう。アール・デコは都市の富の動きをトレースするように、自動車、ファッション、家具、ショップ、レストランなどに広がりを見せた。当時、産油国として豊かさを誇ったアメリカの都市部に、アール・デコの名作建築が多いのも納得がいく。アメリカではジャズ・モダンとも呼ばれていた。

一方でアール・デコはコマーシャリズムと不可分であるがゆえに、それを潔しとしない美術や建築界から黙殺される。やがて第二次世界大戦の勃発と、都市文化の衰退とともに、アール・デコのブームは終焉を迎える。



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アール・デコが再び注目を集めるのは、戦争が終わり、消費と都市の光が蘇った60年代だ。66年にパリ装飾美術博物館で開催された展覧会「Les Années"25"」でアール・デコはデザインとしてようやく評価される。特にファッション業界が、アール・デコ装飾が内包する都市の輝きと退廃に敏感に反応し、世界的なリバイバルのブームを先導した。ところが70年代に入ると、中東紛争によるオイルショックと経済混乱によって、都市の光が失われ、アール・デコはまたも衰退していく。

そして80年代半ば、禁欲的になりすぎたモダンデザインと、建築の技術至上主義的な表現に対し、一部の建築家たちが物語性に富んだ、どこかアイロニカルなデザインを提案し人々の共感を呼んだ。ポストモダンと呼ばれる代表的な建築家、マイケル・グレイヴス Michael Gravesやハンス・ホライン Hans Holleinは、アール・デコ風のモチーフを建築に大胆に用いて人々を驚かせた。彼らはフィクションとしての都市文化の象徴をアール・デコに求めたとも言える。エットーレ・ソットサスを中心とするデザインムーブメント「メンフィス Memphis」にも、アール・デコの影響が窺えた。だがこの動きも、90年代の不況で失速し、デザインも美術も、80年代の反動とも思えるミニマルブームへと向かっていった。

こうしてアール・デコの流れを俯瞰すると、都市文化の光と陰、平和と混乱、富と禁欲の、20年周期で復活を繰り返しているのが分かる。この式に倣えば現在は、アール・デコ復活の時期に当たるのだ。確かにミニマルデザインからジャズ・モダン的デザインに、人々の関心が移行し、装飾の再評価も始まっている。既にその萌芽を察知しているデザイナーもいるようだ。21世紀アール・デコは、間もなく私たちの暮らしに焦点を結ぶかも知れない。







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