昨年末に「週刊朝日」に原稿を書きました。


灯りの好みに地域差があることを知ったのは、オランダの電球メーカーのマーケティング資料を見せてもらった時だ。ヨーロッパでは、北に行くほど温かい光の灯りが好まれ、南に下ると太陽光に近い白い光の放電灯の売り上げが増える。同社担当者は、太陽高度と灯りの好みには因果関係があるのではないかという仮説を立てていた。その説が正しければ、日本人が生活に白い光の蛍光灯を抵抗なく受け入れたこともうなづける。東京の緯度はヨーロッパの南、クレタ島付近に当たる。

一方、日本人が古来より親しんだ灯りは、大きな開口部の障子に乱反射したり、和紙のシェードに拡散する、“垂直に近い面”の光だと言われている。石造りの建築に、灯火を点在させて明かりを採った、ヨーロッパの“点”の集積の灯りとは、照明文化の成り立ちが異なるのだ。灯りの好みは太陽高度だけでなく、住宅の形や使われる素材など、地域の生活文化の影響も受けている。

20世紀後半、光の異文化交流や実験、灯り文化の見直しを通し、さまざまな傑作照明器具が誕生した。それらを現代の生活にどう取り込んでいくか。好みに合わせ、その応用の時代に入ったと言っていい。