次に買う椅子は自宅用に松本民芸家具かジョージ・ナカシマと決めているけど、まだ先のことになりそうです。「エスクァイア日本版」に書いた記事です。松本民芸家具の池田三四郎氏はもっともっと評価されるべき方だと思う。今年は池田三四郎生誕100年です。


英国のウィンザーチェアを手本として、椅子づくりの伝統を松本に築こうとしていた人がいた。民芸家具の聖地松本市に評論家柏木博氏と向かう。

松本市と新宿を約3時間で結ぶJRの特急「あずさ」の名は、往年の歌謡曲のタイトルで鉄道ファン以外にも有名だ。梓(あずさ)とはカバノキ科の木の名前で、ミズメザクラとも呼ばれる日本固有種の落葉高木。信州を代表する樹種の一つであり、堅くしなやかな梓材でつくられる梓弓は、平安時代には信濃の国から朝廷に献上された記録も残されている。城下町ができた16~17世紀には、箪笥などの和家具が、松本の伝統工芸として広く知られるようになったが、加工が難しい梓材を家具に使った先駆は、松本民芸家具だった。

「松本は久しぶりです。前回は小布施での仕事の帰りに立ち寄ったのですが、もう3年前ですね」。晴天の冬の午後、デザイン評論で知られる柏木博氏と、松本市・中町通りを歩く。女鳥羽川と並行する中町通りは、かつては酒蔵や呉服問屋が建ち並ぶ繁華街だった。火災から町を守るため造られたなまこ壁の土蔵が保存され、店舗や社屋として今も現役で使われている。通りには工芸や民芸、骨董の店が集まり、古き松本の面影と相まって人気の観光スポットにもなっている。この日、私たちが目指す場所は、松本民芸家具のショールームだ。