「Dear」(休刊)という雑誌に書きました。ナンシーは住んでみたい町の一つです。


高度情報化社会では、さまざまな情報や感情が瞬く間に伝わると言われていた。これが私たちの理想なのだろうか。何でも分かってしまい、すぐに出合ってしまう社会を求めていたのだろうか。

ガラス工芸で知られるエミール・ガレ Charles Martin Émile Galléがフランス北東ナンシーで創作を始めた19世紀末は都市文化の黎明期でもあった。美の担い手は、宮廷貴族から産業で財を成した中産階級に移り、富は都市に投資される。アール・ヌーヴォーと呼ばれる装飾様式は、都市の自己表現でもあった。同時に西欧は万国博覧会の時代を迎えていた。各国の物産が博覧会場に集まり、宗教や哲学で説明されてきた“世界”は、モノとカタチで捉えられるようになる。博覧会にはもちろん日本の物産も出品され、未知の美とエキゾチズムは西欧の都市文化にジャポニスムのブームを巻き起こした。この時代、何名かの日本人工芸家がヨーロッパに招聘されている。互いの文化理解や言葉が不確かなまま、彼らは何を語り合っていたのだろう。