「『趣味が良い』がどういうことかを理解する前に、私たちはまず悪趣味を駆逐しなければならない」。Gustav Edmund Pazaurek。


    


1865年にプラハで生まれた美術・博物学者のGustav Edmund Pazaurekは、一般市民が「良いモノ」とは何かを知り、駆逐すべき悪趣味を示すため、1909年に南ドイツ・シュツットガルトの州立工芸博物館内にAbteilung der Geschmacksverirrungen(Cabinet of Bad Taste)をつくり、自身が設けたバッドテイスト分類カテゴリーに照らし合わせた悪趣味製品を実際に展示して見せた。それはドイツ工作連盟の啓蒙活動の一環でもあった。選択基準は、誤った素材、誤ったデザイン、誤った装飾などのカテゴリーに分けられていて、それぞれにサブカテゴリーの基準がある。(記事末参照、英語です)。

かつてヨーロッパではドイツ製品は粗悪品の代名詞だった。ドイツ工作連盟設立はドイツ製品の品質向上の目的も大きかった。製造者教育はもちろんだが、ドイツ工作連盟は実際にモノを使う市民たちの審美眼を鍛えるためにさまざまな啓蒙活動を行っていたのだ。使い手がモノに対して厳しい目を持てないと、つくり手も成長しないからだ。子どもたちの教育のために「良い製品とは何か」を教える教材キットもつくり、連盟の担当者はそれを携えてドイツ国内の学校を巡り、今風に言えばグッドデザインとは何かを子どもたちに教えていた。
この教材は「Werkbundarchiv – Museum der Dinge」に常設展示されている。

ベルリンにある「Werkbundarchiv – Museum der Dinge」では、今年の1月11日までPazaurekのCabinet of Bad Tasteを現代に再現する「EVIL THINGS. AN ENCYCLOPEDIA OF BAD TASTE(悪趣味製品大全)」を開催していた。まず、シュツットガルトの州立博物館にあるPazaurek選バッドテイスト収蔵品を借りて展示し、さらにベルリン市民にPazaurekのバッドテイスト分類カテゴリーに適う「酷い製品」を募って、各家庭にあるバッドテイストな品を集め、それを一覧展示することで「悪趣味製品大全」は構成されていた。この展覧会をベルリン在住の阿部雅世さんに教えていただき、昨年秋にベルリンを訪れた際に案内してもらった。この博物館はユーゲントシュティールの建物の中にある。夕暮れの階段を上り博物館へ。



展示品はこんな感じ。超面白かった。市民が応募したバッドテイスト製品の中にはフィリップ・スタルクのデザインが何点かあった。フツーの人に選ばれるなんて、スタルク先生にはまた新しい勲章が加わったね。




     

こういう展覧会、展示品を製造販売している企業のことを考えると日本では難しいんでしょうね。この博物館では常設展示で日用品のパッケージや子どもの玩具を旧東西ドイツで比較展示していたり、名品から名もない品まで、フツーの家庭で使われていた製品を時代別やカテゴリー別にざっくりと展示していて、何時間見ていても飽きないと思う。これがドイツのアーカイブ文化なんだな。一点一点にキャプションはなくて、カテゴリーごとに大まかな解説がある。

以前、ノイハウゼン市役所内の美術館で見た「legal / illegal, Art beyond Law」という現代美術の展覧会を思い出した。

Werkbundarchiv – Museum der Dinge
Oranienstraße 25
D-10999 Berlin