近所のネコがゴハンのお礼に蝉の幼虫を捕まえて、入り口に置いていってくれた。まだ生きているので生け垣の木の枝に載せると、どんどん上にのぼっていく。上りつめたらそこで動きがピタリと止まった。何年間も土の中で過ごして、やっと地上に出てきたのだ。何年間も土の中で孤独だろうと言う人もいるが、一人で生まれて一人で死んでくのは人間も同じことだ。





子どもの頃に読んだポプラ社刊の「ファーブル昆虫記」には、ファーブルの家族が夏の朝に蝉の幼虫を捕まえに森に出かけて、それをフライにして食べる話が載っていた。エビのような味でおいしいと書かれていたのが印象に残っている。ドイツにいた頃は蝉の鳴き声を聞いたことはなかった。黒い森に蝉はいなかったのだ。黒い森にはいなくても南仏に行くと蝉はいる。土に眠る昆虫は氷河期で死に絶えたのではないだろうか。モンスーン気候の日本はヨーロッパに比べると圧倒的に昆虫が多い。農薬を使わない有機農法はドイツやスイスが有名だけど、虫だらけの日本とは苦心のほどが違うのではないかと思う。

「ファーブル昆虫記」を翻訳していた古川晴男先生とはどんな人だったのだろう。ぼくは古川先生のような昆虫博士にあこがれていた。「シートン動物記」は椋鳩十監修を読んだ。「ファーブル昆虫記」と「シートン動物記」は、小学生の頃に、本当に隅から隅まで読み尽くすくらい熟読した本だった。ただしファーブルの記述にはフィクションが多いらしい。「ファーブル昆虫記」を最初に翻訳したのはアナーキストの大杉栄だ。そういえば渋谷にある志賀昆虫普及社の創始者志賀卯助さんの自伝は面白かった。