誘拐怪人ケムール人が走り去る。2020年の人類の姿。成田亨会心の作。
六本木ヒルズで始まった「ウルトラマン大博覧会」は行くべき。
http://www.ocn.ne.jp/anime/ultra/ml
あのテレビ番組にどれほどのエネルギーが注ぎ込まれていたのか。どれだけスゴい人々が関わっていたのか。いや、ホントにスゴいんだ。今なら「世界に通じるソフトを」とか「目指せハリウッドでリメイク!」なんて“(生温い)グローバル”な目標を掲げてCGの製作現場を泣かせるのだろう。でも当時は、ただ日本の、日曜日の夜の子どもたちのために製作されて、子どもを喜ばせたり驚かせようと、少ない予算の中で爪に火を灯して製作した映像に、底知れない力が宿っていた。制作者たちは誰も見たことがないモノや世界をつくりあげて、そこに人の営みというリアリティまで与えた。日本では60年代末にデザインと美術と科学が融合していて、しかも三次元化していて、子どもたちは理想の世界観を共有していた。これこそサードカルチュア。ぼくたちの世代の原点だ。
ありきたりの言い方になってしまうが、物語の設定も登場する怪獣や武器の造形も、余計な知識ナシで見ると見事な美術作品で、個人的には森美術館で開催中の「六本木クロッシング」よりずっと面白い。比較するなと怒られるかも知れないけど。シュールレアリスムの造形やキーワードを怪獣のアイデアに採り入れたり(四次元怪獣ブルトン)、三つの面を併せ持つダダイズムとキュビズムの怪人(三面怪獣ダダ)や、未来派の造形、悲劇の怪獣がアルジェリアの独立運動家ジャミラ・ブーパシャのオマージュだったり、ウルトラマンは子どもが世界が平坦ではないことを知る入り口でもあった。
シュツットガルトの州立美術館シュターツギャラリーで2005年に開催されたFUNNY CUTS: Cartoons And Comics In Contemporary Artという現代美術展では、タツノコプロの天野嘉孝さんが描くガッチャマンがリキテンシュタインや村上隆と並んで展示されていて驚いた。しかもガッチャマンはポスターにも使われ、この展覧会のキービジュアルだった。ぼくらが子ども向けのおやつと軽視していたモノが、海外ではキャビアとかトリュフみたいな評価されていたりするわけだ。今の時代、単なるエキゾチズムだけで持ち上げられることもないと思うし、いろんな表現と同じ地平に置いたときに「コレは面白い」とちゃんとピックアップされているんだろう。ウルトラマン大博覧会も東南アジアを経てニューヨークやイタリアに巡回するらしい。ニューヨークのスノッブなヤツらや偏屈なイタリア人の度肝を抜かせてほしいものだ。
ウルトラQからウルトラセブンの途中まで、怪獣やメカニックのデザインを担当していた成田亨の原画は、今は青森県立美術館がコレクションしている。成田さんの作品集(絶版)はどんどん値上がりしていて、簡単には手を出せない値段になっている。「新しいデザインは必ず単純な形をしている。人間は考えることができなくなると、ものを複雑にして堕落してゆく」(成田亨)。
http://www.aomori-museum.jp/ja/collection/narita/
http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2005-02-11
アルファベット最終文字“Z”と五十音最終文字の“ん”を組み合わせた終末の宇宙恐竜ゼットンと、不思議な石に賊の邪念が宿ったギャンゴ。いずれも成田亨の作。どちらもシンメトリーだな。映像作家の実相寺昭雄が描く怪獣も好きだ。著書「ウルトラマンの東京」の挿絵に使われている。成田、実相寺の絵はポストカードになって会場で販売されている。
「ウルトラマン大博覧会」では、怪獣の剥製が並ぶ自然博物館のような最初の展示ゾーンは写真撮影禁止ではない。太っ腹。カメラを忘れずに。