わが家でいちばん古い家具はヴィスコンティア Visconteaというイタリア生まれのアームチェアだ。アッキレ・カスティリオーニの作と言う人もいる。それは、この椅子のもとになっている“サンルッカ Sanluca”をカスティリオーニがデザインしているからだろう。サンルッカは4本の脚が座面を支えているけど、ヴィスコンティアは擦り足のような形状に変更されている。ひっくり返すとグライズが四つビス止めされているので、実際には擦り足ではない。15年くらい使ってきて、さすがに張り地の痛みも酷くなってきたので、取り扱い業者に張り替えの見積もりをお願いしていて、その結果が郵便で送られてきた。代金は約18万円だった。予想以上に高い。張り地は赤のエクセーヌで計算してもらった。今の張り地はオリジナルの黒のメルトンだ。今のままでは見すばらしいので、最終的には張り替えをお願いすることになると思うのだけど、まだ決心がつかない。ぼくは大久保の古い木造アパートで暮らしていた頃からこの椅子をずっと使ってきた。出版社を辞めた退職金で買った椅子だった。日経新聞の夕刊で紹介していただいたこともある。雑誌の表紙にも使ったことがある。家に遊びにきたノラネコが座面の端っこで一晩寝ていたこともある。15年も使っていると、いろいろな思い出に取り憑かれていて、手放せなくなってしまうものだ。