ノラネコがたまに公園の花をじっと見ていることがある。花を見ているのか、花に集まる虫を見ているのか。夕暮れ時に猫背の背中をいっぱいに伸ばして枝の花を見つめている様子を見ると、このネコの前世は花が好きな人だったのではないかと思ってしまう。ふと、人間の頃の言葉にならない記憶に支配されてしまう時があるのではないか、と考えてしまう。


仲間内でいちばん臆病なネコが、今も臆病のまま公園で暮らしている。
ボブテイルの運動神経の鈍そうなノラネコ。よそ者が来ると分かりやすく虚勢をはって、鼻息も荒々しく最初に立ち向かうけど、すぐに引き下がり、何ごともなかったかのように、立ち木で爪を研ぎ始める。いつも毅然とした態度をとろうとしているようだが、まわりのネコはすべてお見通しという感じだ。だから子ネコすらまともに相手にしない。とにかく間が悪い。このネコが来ると、他のノラネコまでぎくしゃくしてくる。