深夜の路地裏でノラネコのケンカが終わり、静かに雨が降り始める。

イビチャ・オシム、1941年サラエボ生まれ……。
そっか、オシムってサラエボ出身だったんだ。

「サラエボサバイバルガイド」(邦訳「サラエボ旅行案内」)という本が出版されたのが1993年。それから10年経ったサラエボの町を、このガイドブックで歩く企画を「LIVING DESIGN」という雑誌のために考えた。当時、ぼくはこの雑誌のチーフエディターだった。しかし実現しないまま離職。その後は「Luca」という雑誌の編集人になって、やはりこの企画を提案した。でも、ここでも何事も起こらないまま、雑誌は休刊となる。やがて時は過ぎて「10年後の」というキャッチーな言葉は使えなくなり、もし今やろうとしたら「13年後の……」なんて、中途半端なタイトルになってしまう。だからというわけではないが、何がなんでもやっておけば良かった、あの時に。

十数年前のサラエボがどんな状態だったのか。知っている人は多いと思うけど、忘れてしまった人も多いかも知れない。ぼくはニュースや本で読んだだけだから、実際には本当のことは何も知らない。