学生の頃は渋谷で遊ぶことが多かった。当時はパルコ文化全盛期で、客層も今ほど若くはなくて、身の丈に合った街だと思っていた。渋谷にはいろいろな思い出があるから、その頃あったお店や建物がなくなるのは少し悲しい。ぼくの場合、思い出はアタマの中ではなくて自分の外側にある感じがする。建物や場所に自分の記憶が宿っていて、そこに訪れたり、それを見ると思い出せるけど、「それ」がなくなると何も思い出せなくなる。「東急文化会館」がなくなって、今はまだ記憶が蘇るけど、これが新しい建物になるぜんぜんダメだ。昭和の記憶が死蔵してしまう。

今、「シネマライズ」がある場所には、かつて「ホテルオリエント」というラブホテルがあった。ラブホテルって、たぶんいろんな秘密や、それなりに大切な思い出が詰まっている場所なんじゃないかと思う。仮に客室が20室で一日2回転するとして、1年間で1万4000以上の、覚悟とか落胆とか驚喜とか酔った勢いとか、まあ、人々の喜怒哀楽の舞台となってきたわけで、それが壊されるのは何とも切ないものだと、「ホテルオリエント」の解体現場に佇み感じたことがある。ちなみにぼくは「ホテルオリエント」に足を踏み入れたことはないけどね。