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「文学の触覚」。言葉を使うすべての人に [美術/音楽/映画]

「Dear」という雑誌に寄稿しました。「Dear」は先月で休刊です。


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文学や美術ファンだけでなく、言葉を使うすべての人に

「人類最古の詩的創造は、言葉の創造であった。新しく生を享けた言葉は生気にあふれ、イメージ豊かであったにもかかわらず、いまでは言葉は滅び、言語はさながら墓場と化している……」。

1923年冬、レニングラードの芸術キャバレー野良犬で朗読された、若き言語学者の論文「言葉の復活」は、後にロシア・フォルマリストのマニフェストとなる。私たちが便利に使う言葉は、かつてはそのモノを活き活きと描き出す絵画や音楽のような“表現”だった。それが記号化し、道具になり、言葉の芸術的な輝きは忘れ去られてしまう。美しい言葉は使い古され、辞書には、口にするのも恥ずかしい言葉が溢れている。

誤解を恐れずに言えば、文学とは、何万もの手垢にまみれた“言葉”を駆使して、言葉の輝きを再び獲得することだ。無限の音色を使える音楽家と違い、既製の言葉しか使えない表現は、不自由さゆえに独自の発展を遂げた。それが文学だ。その“文学”は、果たして、視覚芸術やメディアアートの表現を求めているのだろうか。

東京都写真美術館で開催中(終了しました)の「文学の触覚」は、今日の文学に、言葉に、何をもたらすのだろう。視覚芸術は、使い古された言葉に豊かなイメージを再生する手助けになるのか。新しい“詩”は生まれるのか。目で見ようが、耳で聴こうが、「文学の触覚」の感覚器官は私たちの心の中にある。そのエッジの研ぎ具合を確かめたい展覧会だ。文学がピエロの役回りにならないことを祈りたい。

「そこで生活の感覚を取り戻し、ものを感じるために、石を石らしくするために、芸術と呼ばれるものが存在しているのである」。

そう語ったのは、冒頭の「言葉の復活」を書いた言語学者ヴィクトル・シクロフスキー Ви́ктор Бори́сович Шкло́вский。「文学の触覚」は、文学ファンやメディアアート・ファンだけでなく、言葉を使うすべての人に、扉を開いているのかも知れない。


会期:2008年2月17日で終了
会場:東京都写真美術館 地下1階映像展示室  東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
時間:午前10時~午後6時(木・金は午後8時まで、入館は閉館30分前まで)
http://www.syabi.com







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