フォトグラファーの甲斐さんと雑誌の仕事で南ドイツに向かう。

午後1時に成田を離陸したルフトハンザは、約11時間のフライトの後、大きな満月を従えて夕刻のミュンヘンに到着。まだ午後6時過ぎなのに11月のドイツの空には既に光はなくて、真夜中にだけ現れる蛇が滑走路にとぐろを巻く。入国審査を終えてから乗り換えの飛行機までバスに乗り、駐機場から脚立のようなタラップを7段くらい上る。そこからはターボプロップの小型機でシュツットガルトまでの夜間飛行となる。機内は路線バスよりも狭い。プロペラ機の窓から眼下を窺うと、光る砂を散らしたような小さな光の塊が黒い大地に点々と連なり、小さな飛行機はいくつもの町を飛び越えていることが分かる。それらを結ぶ絶え間ない光の流れは、クルマのヘッドライトがアウトバーンをトレースしているのだろう。たぶん黒い森の上空を飛んでいるはずだ。約1時間のフライトだった。



シュツットガルト国際空港は何度も利用したことがある。だから異国に来たという気がしない。ドイツ語はほとんど分からないくせに、飛行場内に響くドイツ語のアナウンスさえ懐かしい。荷物を受け取り、空港から黄色いタクシーに乗って町の郊外にあるホテルを目指す。車窓を眺める気分は、大げさに言えば故郷に帰ってきた感じだ。実際にはたった1年間しか住んでいなかった。でも公私ともども本当にいろいろなことがあったから、ここで10年くらい過ごした気分なのだ。