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ソファとリビング [デザイン/建築]

床座の時代が長かった日本人の「椅子」は、西欧に比べると歴史が浅いので、椅子のデザインも選び方も、生産者、消費者ともに十分に成熟していないのではないか。そんな類いの話をたまに聞くことがある。確かにそれは間違いないが、それはあくまで小椅子の話。家族団らんのためのソファの歴史に関しては、実はほとんど変わらないということを、アルフレックスジャパン代表の保科正さんにうかがった話で知った。それまで応接のための座だったソファが、家族のためのソファとなったのは、つい50年ほど前のイタリアでのこと。戦後のイタリアの住まいの中で、ダイニングとベッドの間に生まれた「団らん」の場所がソファだった。その寛ぎのスタイルが世界に広がっていったのだと保科さんは話してくれた。ヨーロッパの国々に暮らす人々は、ずっと昔から「ソファ」という家具を使ってきたと思っていた。でも、リラックスするための座面が低いソファは、新しいジャンルの家具の一つなのだ。ということは、ほぼ同じスタートラインに立つ日本からも日本人らしい現代の寛ぎの場(ソファ)が生まれる可能性があるわけだ。そのヒントは「炬燵(こたつ)」。保科さんのお話を記事にまとめたので、下に転載します。

保科さんは1942年、医者を家業とする旧家に生まれたものの、デザイナーを志し多摩美術大学でデザインを学び、卒業後、東京グラフィックデザイナーズを経て、1965年にヴァン・ヂャケットに入社。1967年にイタリアに渡り、アルフレックス社に。1969年に日本法人アルフレックス・ジャパンを設立。現在に至っています。

応接の場から家族の寛ぎの場へ。ソファの大衆化がイタリア人の暮らし方を変えた。

今日的な「ソファ」の原形は50年代のイタリアで生まれたと言えるでしょう。第二次大戦後、敗戦国であったイタリアは工業の隆盛で奇跡的な復興を果たします。ちょうど同じ頃、イタリアの家具の歴史にも、奇跡的な変化が起こりました。「ソファ」はこの動きの中で一気に進化していきました。ソファなどの大型家具は、かつては階級社会を象徴し、権威や富を誇示する特権的調度でした。ソファは家族が寛ぐ場所ではなく、大勢の来客者が腰掛けるための場あり、応接の道具としての意味合いが強かったのです。座面高は現在のものより高く、木組みフレームに固いクッションを張りぐるんだ「応接セット」でした。
しかし、1951年ミラノトリエンナーレでアルフレックス社が発表した「レディ」(下写真)という椅子が、その後のソファのあり方を大きく変えていきます。ピレリ社の成形ゴムと伸縮するエラスティックベルトの新技術。それを家具に応用することで、熟練した家具職人がいなくても座り心地の良いソファを工業製品としてつくり出すことができる。それは貴族の特権だったソファが大衆に開放された瞬間でもありました。まず気鋭の建築家たちがアルフレックスの新製品を支持し、当時のオピニオンリーダーたちがこぞって、座り心地の良い「工業製品」のソファを買い求め、それがイタリア人のライフスタイルを大きく変えていったのです。ダイニングとベッドの間に「ソファ」という場が生まれ、一般市民が、家族で、ソファを中心に寛ぐスタイルをつくり出しました。ソファのある人生。それは60年代に入りたちまち世界に広がっていきます。
当時私はVANヂャケットの仕事を通して、若くして欧米の生活環境を目の当たりにする幸運に恵まれ、イタリア発の豊かなライフスタイルに触れるにつけ、日本人の暮らし方も将来変化していくはずだと強く感じていました。そして1967年にイタリアに渡り、アルフレックス社での仕事を丁稚奉公から始めたわけです。

私はその2年後に帰国して、東京四ッ谷にアルフレックス・ジャパンを設立し、以後、日本人の暮らしに「ソファ」という安楽の場をフィットさせるべく奔走してきました。あれから日本人のライフスタイルは変化したでしょうか。変わったと言えば変わったかも知れません。でも、平日の夜、歓楽街に行くと深夜近くまでビジネスマンが管を巻いているでしょう。それを見ると私の記憶は一足飛びに40年前のミラノの記憶に遡ります。イタリア人が大切にしていた家族の時間と場所。その中心にあったソファ……。私は日本の父親に、飲み屋ではなく「家」に、家族の時間に寛ぎの場や幸せを見出してほしいと思っている。仕事を終えると一目散に家に帰り、家族と団らんの時間を持つ。あるいは自分の時間を楽しむ。ソファはそのための道具です。つまり日本では、「ソファ」は、まだ十分に役割を果たしていないのかも知れません。
実は日本人の暮らしには、かつては「ソファ」的な場所がありました。食事をしたり、昼寝、宿題、トランプをしたり……。家族が集まり、ともに時間を過ごす場は「炬燵」でした。炬燵が持つ多目的性や親密性は、50年代以後のモダンソファが備えていたものと同じです。しかしモダンライフは日本間を隅っこに追いやり、都市生活の中での炬燵の置き場所は失われているのが現状でしょう。「ソファは炬燵の代わり」。そう考えると日本人にとってのソファの位置、ソファのある人生が見えてくるのではないでしょうか。暮らしの中のソファの可能性はまだたくさん残されています(雑誌「TOKIO STYLE」より転載)。
http://www.arflex.co.jp/

アルフレックスと私とイタリアと

アルフレックスと私とイタリアと

  • 作者: 保科 正
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

実はまったく期待しないで読んだのだけど、この本はかなり面白かった。生前、石津謙介さんからもアルフレックスの話を聞く機会があり、また、ぼく自身、80年代半ば、家具会社で働いていたこともあって、個人的にはいろんなことが思い出されて、とても興味深く読むことができた。文章を通して保科さんのお人柄にも触れることができる。


一方、家具メーカーのADコアから配信されるメルマガには興味深い記事が載っていることが多く、今回のコラムも面白かった。こちらも勝手ながら転載させていただきます。おそらく樋口さんという方が執筆されているはず。樋口さんは大手広告代理店勤務を辞めてイギリスに渡り、家具職人の勉強をされてから帰国、現在はADコアで、広報宣伝などコミュニケーション関係の仕事をされています。

以下AD CORE MAIL MAGAZINE 2006 . 10.27 vol.63より

アメリカや日本では、リビング・ルーム living room、英国ではドローイング・ルーム drawing room、シッティング・ルーム sitting roomと呼ばれる、寛ぎの部屋・居間。また、フランス語が語源のラウンジも同様の意味で使われていますが、このラウンジと言う言葉、家具業界での一般的な使われ方としては寝椅子・長椅子などの意味で使われています。ちなみに、この長椅子を意味する言葉はフランス語でchaise longueと書き、椅子:chaise/chair(英語)、長い:longue/long(英語/米・豪ではlounge)、そのままフランス語のスペリングが英語に転化してシェーズ・ロングとなったとのこと。加えて、その長椅子で寛ぎ、休養をとることから、休憩へ、休憩する場所ラウンジへと発展したとの事で、現在の使われ方が定着しているそうです。

英国連邦圏の国々では、「drawing room ドローイング・ルーム」が、フォーマルな客間、宮廷などの公式接見・謁見の出来る、貴族などの邸宅・屋敷の居間で、「living room リビング・ルーム」よりもフォーマルな意味を持って認識されています。また、sitting room シッティング・ルームは、ちょうど、その中間に位置するようです。英国の典型的なシッティング・ルームと言えば、暖炉で薪が燃え、居心地の良さそうなソファと椅子、コーヒーテーブル、書棚などが想像されますが、現在では、暖炉がガスに、薪はイミテーションに換わっています。それでも、テレビ、ステレオ、ゲームなどを楽しむ寛ぎの部屋としての本来の機能は、維持されています。

寛ぐための部屋・家具、食事をするための部屋・家具、料理をつくるための部屋・家具、睡眠をとるための部屋・家具、入浴をするための部屋・家具、着替えをするための部屋・家具…と。当たり前の事ですが、常に人間の行動とスタイルを支える道具としての家具が、ここに有ります。常にその人のライフスタイルと美学(ちょっと大袈裟ですか……)が、中心にあるようです。(以上、AD CORE MAIL MAGAZINE 2006 . 10.27 vol.63より)
http://www.adcore.co.jp/



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