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オシムの言葉 [生活雑感]

今夜はすごく蒸し暑い。深夜、近所の小さな公園の捨て猫にゴハンをあげにいく。道の角を曲がると、神田川はまだずっと先なのに、辺りには噎せ返るような川の匂いが漂っていた。それでも公園に近づくと、川水の匂いはゼラニウムの香りと入れ替わって、湿気を含んだ泥のような空気がふわり軽くなった。帰り道に遠回りして川沿いの舗道を歩くと、どこに咲いているのかクチナシの甘い匂いに足が止まる。クチナシは花は白いのに実はオレンジ色。実だけを見た人は、この種から育つ花の白さや匂いは想像もつかないだろうなと思う。月見草の花に、スカシバ蛾が忙しく羽ばたいて花に頭を潜らせているのを見て、空を見上げると右側から欠け始めた丸い月が出ていた。夜の散歩は発見が多い。

さらに暗渠の遊歩道を歩き、新宿中央公園に近いカフェレストランでアイスコーヒーを飲みながら「オシムの言葉」を読み返す。この本はホントに面白い。絶対に読んだほうがいい。筆者の木村元彦氏はぼくと同じ年齢で、この世代が書くスポーツ・ノンフィクションといえば沢木耕太郎の影響下にあると思うのだが、沢木本の映画のカット割のようなテクニカルで、個人的なバイアスがかかった描き方を真似るのではなく、一人でも多くの関係者のコメントを聞き、それをコツコツ積み重ねてオシムに迫るモダンな書き方が、ぼくの好みにも合っていた。オシムを神格化しない、敬意を孕んだ真摯な距離感も心地良い。木村氏は真面目な方なのだ。こういう書き手は尊敬できる。彼が川淵キャプテンに対して怒りを覚えるのもよく分かる。確かに、オシム氏自身が語る言葉は含蓄があって心に染みるけど、それ以上に、オシム氏のまわりの人々が語る「オシム像」に、この監督のスゴさを垣間みることができる。「誠実さ」に価値を認めらづらくなった国と時代で、こういう本が多くの人に読まれているのは嬉しいことだ。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

  • 作者: 木村 元彦
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本



「オシムの言葉」に、小さなエピソードとしてジェフ千葉の佐藤勇太とディヴィッド・ベッカムのマッチアップの話が出てくるのだが、これを読んでベッカムは器がでかい人間だなと思った。こういうプレイヤーがいるからフットボールは魅力的なんだ。ナカタも本当はそうだったのかも知れない。ナカタについては、あの記事をアップした後に知人からメールをいただいて、彼自身が置かれている不自由な状況と自分の言葉で話せない不憫さを知る。デーモン小暮がTVで普段の「小暮さん」に戻れないように、小倉優子やダンスマンやミッチーが素になれないように、中田英寿も「ナカタ」から戻れないところまで来てしまったのだ。彼はただサッカーをしていただけだったのに、回りの人々がそんなのっぴきならない状況に追い込んでしまったのだろう。今、巷の沸点を5℃くらい下げている引退熱が冷める頃には、一斉にナカタ叩きが始まると思う。嫌な渡世だ。ぼくは前に書いたようにヒステリックに無視しようと思っている。



前に雑誌の「Pen」はダメだと偉そうに書いたけど、今のステーショナリー特集は面白かった。いつもの「Pen」ですんなり読めるのは萩原さんのデザインの連載と山口さんの物欲系記事だ。書き手が対象に愛情があり、そういう記事は心安く読むことができる。それより「Pen」の一冊丸ごと佐藤可士和の号っていったい誰が買ったんだろう。佐藤可士和氏も、既に「デーモン小暮」道に踏み込んでいるような気がするのはぼくだけだろうか。髪型をいつも同じに保つもの大変だろうな、と特集号の表紙を見て思った。彼の仕事とはぜんぜん関係ない「髪型」が気になるのも、歪んだメタ雑誌文化の影響なのかなと思う。

お昼過ぎに2000年のイギリス映画「イビザボーイズ GO! DJ!」のDVDが届いた。なぜ買ったのかというと、監督がエド・バイだったから。彼は「宇宙船レッドドワーフ号」の監督だ。で、製作スタッフは「Mr.ビーン」と同じ。噂では抱腹絶倒のバカコメディ映画だったはずだけど、汚物ネタが多いのは辛かった。それ以外はバカバカしくてけっこう面白い。小ネタがイギリスっぽいなあと思う。

イビザボーイズ GO DJ!

イビザボーイズ GO DJ!

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2002/10/17
  • メディア: DVD

前から気になっていた映画「鉄人28号」もDVDを借りて観た。でも、この映画は酷かった。とにかく、大人もコドモも、泣いているヤツがたくさん出ている映画は気持ちが悪い。これ見よがしのCGも悲しいくらい品がない。でも、ヒロインの蒼井優は、スチールで見ても特別惹かれる感じはしないのだけど、映画の中ではスゴくキレイで魅力的だった。人気があるのもよく分かる。この映画の唯一の収穫は蒼井優が出演していたことだ。
同じ日に塚本晋也監督の「東京フィスト」も久しぶりに観たけど、こちらはやっぱり面白い。映画館で観た時には気づかなかったシーンがいくつかあったが、DVDは再編集版なのだろうか。正直言うと、その「映画館では気づかなかった」シーン、例えば高校時代のエピソードは説明的で邪魔な感じがした。この場面は記憶になくて、ついでに書くとぼくにはまったく不要だった。同じく塚本映画の「ヴィタール」では、父親と教授の会話がぼくには蛇足だったし、「双生児」ではりょうが川辺で男を待つシーンが邪魔だ。でも塚本監督はわざとそんなシーンを挿入しているんだろうな。「東京フィスト」で真に迫るのはボクシングジムの会長役で出演している輪島功一さんの演技だ。もちろんセリフもたくさんあるけど、素人芝居という感じがまったくしない。


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