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雑誌編集者 [本/雑誌/文筆家]

今時になってやっとiPodを買ったぞ。nanoの2GB。色はブラック。さっそく音楽をダウンロードしたのだが、iTuneのデータが溢れてしまい、いきなり200曲くらい適当に間引きされてしまった。それでもう一回、iPod選択項目用のフォルダをつくり直して、2Gに収まるように曲数を調整したんだけど最後の数曲というところにきてからどうしても削れなくなって、どうでもいいところで時間を費やしてしまう。その途中で気づいたこと。アニメ「ルパン三世」のエンディング曲「ラブ・スコール」を歌っているサンドラ・ホーンって、サンディ&ザ・サンセッツのサンディだったんだね。

   


つい先日まで、桜の花びらでピンク色の流れだった神田川は、いつの間にか(たぶん)普段の水面に戻り、カモの家族がいなくなった代わりに、空にはツバメがやって来た。羽虫がたくさん飛んでいるらしく、夕刻にはお腹をすかせたコウモリも羽ばたくようになった。季節が急に変わった感じがする。そうこうしている間に今年の1/3が終わったわけだ。あまりに早過ぎる。

4月末までに納品しなければならない仕事を2カ月間手伝っていて、それが無事終わり、今年のゴールデンウィークは仕事がぱったりなくなった。厳密に言うと原稿が1本と原稿の手直しが2本ある。でも、それだけ。この時期に休みがとれることが良いのか悪いのか、微妙な感じだ。今忙しくないと再来月の収入が少し心配だったりする。4月末納品の制作物はちょっと複雑な背景があって、内容は公表できないのだが、この歳になっていろいろと考えさせられた仕事だった。途中何度か、自分が誰のために何をしているのか分からなくなり、うまく言えないけど、どこに誠を尽くせば良いのか見出せずにいた(もちろん楽しいこともありました)。要は割り切り方が難しかったと言うべきか。以前、日本フィリップスの仕事をした時、事業部長(当時)の山田修さんから著書を何冊かいただいたことがある。山田さんは何社もの外資系企業のマーケティング部門(時には経営部門)を渡り歩いた方で著作も多い。その本の中に印象的な言葉がある。とある会社に三行半を突きつけて辞める際、その会社の上司がこんなことを言ったというのだ。「会社に忠誠を誓ってはいけない。会社はあなたを簡単に裏切ります。自分の仕事に忠誠を尽くしなさい。仕事はあなたを裏切りませんから」。ぼくはこの本に登場する無名の外資系ビジネスマンが語る、この言葉が忘れられない。だから今回の仕事では、とりあえずぼくは「自分の仕事」に忠誠を尽くそうと思った。っていうか今はそれしかないからな。


MBA、それからの10年―オレは国際派「企業テクノクラート」をめざす

MBA、それからの10年―オレは国際派「企業テクノクラート」をめざす

  • 作者: 山田 修
  • 出版社/メーカー: 日本実業出版社
  • 発売日: 1994/09
  • メディア: 単行本


雑誌編集者ってこれからどうなっていくんだろう。1年間、この仕事を離れている間に、雑誌の状況はすごく変わっていた。だからぼくはまだ追いつけていない。「雑誌」って何かと聞かれると、今は「広告の器」だとしか言えないな。それも、本体よりそれに乗(載)っている1億とか2億稼ぐ広告のほうがずっと価値がある。読者にとって価値があるんじゃなくて投資家や経営者にとって価値があるわけ。それが巡り巡って読者の価値につながると言う人もいるけど、どうしてそんな回りくどいことを考えるのだろう。
つまりこういうことだ。雑誌は博打になったのだ。誤解を恐れずに言えば、今の編集者は博打のサイコロだ。そんな賭場で喜んで転がるサイコロもあれば、お金のために割り切って転がる痛々しいサイコロもいる。ぼくもいつか転がらないといけなくなるのなら、早々にこの仕事を離れなければと思う。

それでも最近、ふと気分が一足飛びに初心の頃に戻るようなことがある。

元エスクァイア日本版編集長の清水さんにお声掛けいただいて、先月から「TOKIO STYLE」という雑誌を手伝っている。何があったのかは窺い知れないが、ここの編集部にはベテランのエディターが不在で、今は若い編集者だけでいろんなところにぶつかりながらつくっている感じの雑誌だ。それで清水さんにタスクフォースとして白羽の矢が立ったのだろう。とにかく、ここの編集者は超真面目で、すべてが直球勝負。変化球使う余裕がないとか、もともと投げる技術がないとか、そんな無粋な勘ぐりはどうでも良くて、その、あまりの実直さに長年業界風に吹かれて曲がった背骨が伸びる思いがした。大量の情報が行き来している都市で、気の利いた人なら自分が必要な情報は雑誌なんか見なくてもいくらでも入手することができる。それを面倒くさいと思う人がいるから、情報誌が未だに生き延びているわけだ。つまり雑誌編集者ってホテルのコンシェルジュみたいなサービス業で、自分が汗をかいた分、読者に利益を提供することができるという面もある。熱力学の法則みたいなものだ。でも最近の編集者はあんまり汗かかないし、老成して賭場で転がることで目一杯だったりする。その点、「TOKIO STYLE」の編集者は変に熟(こな)れていなくて、とりあえず一緒に仕事をしていて清々しい気持ちになれる。社会は真面目であることの価値をもっと認めないとね。

もう一つ。代官山にあるヘアサロン「Boy」スタッフや周辺のクリエーターが中心になって制作している「plusing」という雑誌がある。この雑誌はミッションが明快で、雑誌のレベルはヘアスタイリストやそのまわりにいる人たちの美意識の高さに支えられている。醜い雑誌になることを潔しとしない、志しの高さが伝わってくる感じだ。荒削りに思えるところさえ表現の手段だったりする。インテリジェンスも高い。基本的には美容の雑誌だけど、ある時期、レストラン料理専門誌のデリバティブが読者層を広げたように、美容専門誌の枠を壊して、同じ美意識の人たちのコミュニティの旗になれば良いと思う。しかし現状はいろいろ大変みたいだ。こういう本は心から応援したいと思う。
http://www.plusing.com/
http://www.boy-daikanyama.com/

やっぱり志しだよな。何事も。


最近読んだ本。
空想生活の西山浩平さんが自分のサイトのブックコーナーでも採り上げていた「ティファニーのテーブルマナー」。すごく久しぶりに読み直した。ジョー・ユーラのイラストが最高だ。こういう挿絵を描ける人ってもういないんじゃないかな。それを見るだけでも価値がある。ぼくが持っているのは第21刷(1990年発行)で、今のものとは装幀が違う。ティファニーっていいうのはニューヨーク五番街にあるあの「Tiffany」(日本にもたくさんあるけど)。これはそのティファニーがティーンエイジャー向けにつくったテーブルマナーズの冊子だ。ジャケットの折り返しに推薦文を書いているのは、初代国連大使の加瀬俊一氏(加瀬英明氏の父上)と帝国ホテル社長の犬丸一郎氏。なんだか時代を感じさせる。「これ1冊があれば、日本はもとより世界のどこで、どんな高貴な人に招かれても、安心して食事を味わえます。たとえ、バッキンガム宮殿の賓客になっても」(加瀬さんの推薦文より)。
20年くらい前、鎌倉の加瀬俊一邸に原稿を受け取りに行ったことがある。「鎌倉駅に着いたらタクシーに乗って、加瀬の家まで行ってくれと言ってください」と言われたので、タクシーの運転手にそう伝えると「はい、分かりました」と、住所も番地も問われずに走り出したのには驚いた。加瀬邸は広い庭がある瀟洒な洋館で、メイドさんにエントランスの付室に通され、そこで加瀬先生から直に原稿を受け取り、お茶をごちそうになって少しだけ雑談をした。「そろそろ失礼します……」と立ち上がると、加瀬さんがメイドさんにパンパンと手を叩いて合図して「ほらほら、橋場少年が帰るよ」とクルマの手配をさせ、加瀬さん本人や洋館や原稿のことより「橋場少年」と呼ばれたことだけが印象に残っている。昭和な一日だった。昔はこうして原稿をもらいに行ったんだよな。

ティファニーのテーブルマナー

ティファニーのテーブルマナー

  • 作者: W.ホービング
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1969/12
  • メディア: 単行本


Tiffany's Table Manners for Teenagers

Tiffany's Table Manners for Teenagers

  • 作者: Walter Hoving, Joe Eula
  • 出版社/メーカー: Random House Childrens Books (J)
  • 発売日: 1989/03
  • メディア: ハードカバー



今、読みかけの本は「状況の埋め込まれた学習」。学習って何のことだったのか、眼からウロコが落ちる。これはかなり面白い。アフォーダンスについての本です。かなり偏屈な「オペラの運命」もお薦め。オペラに行きたい。

状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

  • 作者: ジーン レイヴ, エティエンヌ ウェンガー
  • 出版社/メーカー: 産業図書
  • 発売日: 1993/11
  • メディア: 単行本


オペラの運命―十九世紀を魅了した「一夜の夢」

オペラの運命―十九世紀を魅了した「一夜の夢」

  • 作者: 岡田 暁生
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 新書


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コメント 5

ながし

元気ですか?
ご紹介いただいたのは3年くらい前だったでしょうか?
お陰様で、ずっと通っています、boy。
6月6日にモエレ沼公園で、
ワークショップなどもあるヘア・ショーを開催そうで、
見に行ってきます~。
by ながし (2006-05-04 20:41) 

Ako

久しぶりにコメントします。
私はずっとフリーランスで仕事をしているせいか、
基本的には「自分の仕事に忠誠を尽くす」ですね。
クライアントはしょせん他人なので、
自分の仕事は自分で守る姿勢が身に付いています。
でも確かにある程度こなれてくると、
面倒くさいなと思う仕事は(でも断れない仕事)、やっつけになることがあるかも。
初心忘れるべからず、ができる人は尊敬します。
by Ako (2006-05-04 21:54) 

hsba

ながしさん、ご無沙汰です。元気になりましたか?
モエレ沼に行くんだ。いいなー。Boyはホントに良いお店です。自信を持ってお薦めできます。変に気取ってなくて、技術が素晴らしくて、その割にリーズナブルですからね。かれこれ15年以上、ぼくの担当だった方がロンドンに行ってしまい残念です。

Akoさん、こんにちは。
たぶんぼくが思うに、フリーランスであってもライターの本当のクライアントって、その記事を読んでくれる読者なんだと思います。それは編集者も同じで、本当のクライアントって本を買ってくれる読者の方々なのだと思っていた。もちろん広告主も大切なクライアントですけど。ぼくたちは「読者」にロイヤルティーを持たないといけないのだと思う。読者に対する興味を失うとヤバいです。まあ、気が緩むとそんなこと考えなくなっちゃうけど。
by hsba (2006-05-05 00:53) 

ヨッシー

Boyに反応してしまいました。Boyって昔、代官山の同潤会中庭にあったお店でしょうか?ショップカードが印象的でそんな記憶があります。僕のいっている美容院の担当が休職してしまって、違うところに変えようかと思っていたところなので、候補にしてみます。
by ヨッシー (2006-05-06 11:57) 

hsba

ヨッシーさん、DMありがとうございました。
確かに同潤会アパートの中にもお店がありました。今は代官山と表参道です。ウェブサイトがカッコいいですよ。完璧な西ヨーロッパのハイクオリティサイトデザインです。
by hsba (2006-05-08 03:54) 

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