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逗子なぎさホテル/小津安二郎監督 [旅/ホテル]

秋空の色は世界中どこも同じなのだろうか。

こういう空を見ると、以前、神奈川県逗子市にあった「逗子なぎさホテル」のことを思い出す。ぼくは大学3年の秋に、このホテルに一晩だけ泊まったことがある。当時は「ホテル」を楽しむ余裕なんてなくて、駅からの途中、小僧寿司か何かで寿司の詰め合わせを買って、食事も部屋で自前で済ませていた。シーズンオフということもあり人の気配はほとんどなかった。ホテルの中を少しだけ探検したけど、そんなに大きい建物ではないのですぐに一回りしてしまい、あとはほとんど部屋の中で過ごした。西洋風のバスルームの金具やドアノブが金色の真鍮製で、それだけで特別な場所に来た気分になったのだ。せめて朝食をレストランで食べるとか、ラウンジでコーヒーくらい飲んでおけば良かったな。あの時は少々気後れしていた。それに、またいつか来る事ができると思っていた。
部屋は2階のビーチサイドを予約したので、カーテンを開けるとホテルの裏庭と国道134号線の向こうに海が見えた。とにかく空が広かったことを思い出す。砂浜では地元の高校生が部活の練習をしていた。ラグビーの練習だったと思う。ホテルの外壁を塗り替え中で、ぼくが泊まった部屋のそばでも午後から作業が始まり、仕方なくカーテンを閉めた。それから海岸を少しだけ散歩した。ただこれだけのことなのに、この日のことはよく覚えている。秋の空が特に印象深い。残念ながら「逗子なぎさホテル」は1988年に閉館してしまう。大正15年に創業し昭和とともに去ってしまった。今は跡地にファミリーレストランがあるらしい。
なぜこのホテルに泊まったのか。確かCBSソニー出版から出ていたムックに、モデルの木村東吉さんが書いた「逗子なぎさホテル」を紹介する小さなコラムを読んで、ぼくは初めてこのホテルのことを知った。それで宿泊料金が安くなるシーズンオフに泊まってみようと思ったわけだ。「逗子なぎさホテル」については、このウェブサイトが面白い。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/sz_tomo/nagisa/nhotel.htm

散歩の途中、お昼ご飯に甘いパンを食べた。


夜、フェロー8人くらいがビデオルームに集まって映画「秋刀魚の味」を観た。ヨーロッパで人気の高い小津安二郎の遺作。淡々とした会話の不思議な間合いと、同じ言葉を繰り返す台詞が面白かった。アグファカラーの色合いが独特で、鮮やかな赤色が印象に残る。小津研究者の方々の言葉通り、どのシーンも計算づくなのだろうと思う。思い返すと無駄な伏線やシーン、台詞がなくて、とてもモダンな構成。どうってことない話で映画が一本できているのも驚くところだ。ひょっとしてサッポロビールとサントリーとのタイアップあり? それにしてもヨーロッパの人たちはこの映画をどのように観るのだろう。ちなみに見終わった後はみんな無言だった。途中退場者が3名。小津映画は観る前にウォーミングアップが必要なのかも知れない。フランス語版のタイトルは「LE GOUT DU SAKE」(酒の味……鮭の味ではないと思う)。岩下志麻さんの美しさと首の長さ、トリスバーのママ岸田今日子さんがとてもチャーミングだったことに新鮮な驚きが……。空腹だったので長兄役の佐田啓二が同僚といっしょに食べていたカツレツが超おいしそうに見えた。ぼくもビールとトンカツが食べたい。できればカミカツを半分は大根おろしで、残りは濃厚なトンカツソースと練りからしで。大量のキャベツと一緒に……。あ、シュニッツェルをウスターソースで食べればトンカツ代用食になるかも。でも、管理栄養士さんに叱られそうだ。

秋刀魚の味

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2005/08/27
  • メディア: DVD


生きてはみたけれど~小津安二郎伝~

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 1993/11/21
  • メディア: ビデオ


小津安二郎の食卓

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  • 作者: 貴田 庄
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 文庫


国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録

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  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2004/06/11
  • メディア: 単行本


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コメント 6

202

すげー面白いです。
以前このサイトでご紹介の書籍、何冊か購入しました。
はやく日本に帰って来て下さい。再会できるのが待ち遠しいです。
by 202 (2005-10-25 21:36) 

hsba

202さん、ごぶさたしています。帰国すると40代半ばにして無職という悲惨な状況なので、日本に帰るのが怖くなることも……まあ、何とかなるとは思いますが。再会を楽しみにしています。本、気に入ってもらえると嬉しいです。
by hsba (2005-10-26 08:39) 

202

ぼくは、とりあえず、マックス・ビルの本を買いました。
先日、五十嵐威暢さんのシリーズ展のお手伝いをしたので、復習の意味で読んだのですが面白いですね.橋場さんは札幌ご出身とのこと、北海道でもデザインに対する関心が高まって来ていろんな情報発信の場所ができてきたので、何かご一緒できることがあるといいなと思います。でわまた
by 202 (2005-10-27 12:25) 

hsba

202さん、こんにちは。この上にコメントがある202さんとは別の方ですよね。たぶん。
札幌にも念願の市立デザイン大学ができますし、デザイン認証制度も始まりました。これからは観光や農業の分野でデザインの考え方をどう生かすかという取り組みが始まるのだと思います。ベルリンやアムステルダムに行くと、ぼくは札幌を連想してしまいます。街の性格とか状況が似ているような気がする。いつか日本を代表するデザイン都市になるといいのですが。
by hsba (2005-10-28 07:58) 

kyoko_asakura

初めまして! 
バルセロナで出版関係の仕事をしています。
当地でも小津安二郎は、映像関係者に人気があります。
友人(映画監督)で、子供のときからずっと見て育って、原節子が
お姉さんみたい...(でも日本にはいったことがない)と言う人がいます。だから、
イメージが壊れるのがこわくて、東京にいく勇気がないそうですが、そろそろ一緒に北鎌倉や京都にいこう..といつも話しています。
私も1週間前にブログを始めたばかりで、橋場さんのページに刺激をうけてます。
では、また。 今後ともよろしくお願いします。 http://barcino.exblog.jp/
by kyoko_asakura (2005-11-13 01:28) 

hsba

kyoko_asakuraさん、初めまして、というか、ぼくはkyokoさんのことを知っているので「初めまして」という感じではないんですよ。前職の前はOZONEの情報バンクで仕事をしていたし……。ドイツでも、というかソリチュードでも小津と成瀬巳喜男は人気があります。「今の日本はかなり違う」といつも説明するのが大変ですよ。ブログ、時々、おじゃまします。こちらこそどうぞよろしく。
by hsba (2005-11-13 02:52) 

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