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バスタイムのデザイン [デザイン/建築]

今年の春に「Esquire日本版」にTOTOの新製品の記事を書きました。


建築家で建築史家のバーナード・ルドフスキーは、歴史の中で失われた生活様式をまとめた「さあ横になって食べよう」という本を、1980年のクーパー・ヒューイットの展覧会のために著している。彼はこの中で、「私は1日に二度、2時間ずつ熱いお風呂に入った」と語った発明家フランクリンに触れ、「楽しみのためでなく、必要のために食事をせよ」の格言も彼の前では説得力を失うと、快楽主義の暮らしぶりを好意的に紹介している。日本人は世界的に「お風呂好き」と知られているが、同書によると実は中世以前の西洋でも入浴を楽しむ文化があった。大勢の男女が巨大なバスタブにつかり結婚披露宴を楽しむ絵画も描かれている。しかし、お風呂と酒宴いう二重の快楽は、清教徒により自堕落とみなされるようになり、西洋の風呂文化を変質させ、失われた様式になってしまったようだ。

だが日本では、お風呂がもたらすさまざまな効果を、良好な人間関係や、気分転換に生かしてきたのは周知の通りだ。ルドフスキーは別の著書「キモノマインド」で、「何か心配事があるときには、風呂に入ることにしています。入る前に悲観主義者だった私が、風呂から出てくると楽天主義者になっているのです」と打ち明けた日本人の言葉を紹介し、日本の入浴は、アメリカ人のカクテルパーティーに似通っていると述べている。疲れた心を1オンスの酒で癒すように、日本人は熱いお湯につかる、と彼は日本人の入浴を捉えていた。「ただし日本の浴室も近年は、60年代半ばに誕生した樹脂製ユニットの台頭で、欧米のように清潔と機能を重視した、体を洗う設備としての色合いが濃くなっていました。それも確かに大事ですが、最近は装置ではなく居住空間としての快適性や建築空間との整合性が浴室には求められていると言えます」と、TOTOデザインセンター・グループリーダーの伊庭宏氏は言う。機能主義や合理性から、情緒や感情に関わる場へ。入浴が暮らしの中で再評価されていると言っていいかも知れない。かつて浴室内では「照明は明るく、ハンドルは軽いほうが良いとされていた」。こうした約束事への疑問と、生活者マインドの変化にしっかりと向かい合った同社の成果が、新しいシステムバス「SPRINO」のデザイン開発に生かされている。

「体を清潔にする機能は、入浴を楽しむ環境に付随するものと考え、私たちがどのようにお風呂を楽しんでいるか、楽しみたいのかを5つのシーンに整理してデザインは進められました」と同社デザインセンターで「SPRINO」のデザイン主査を務めた小西加呂氏は振り返る。「子どもの頃に体験した古い日本家屋の大きなお風呂。高い網代天井と窓には竹桟の目隠しが。少し怖かったけれど、心地良い記憶が残っています。たぶん浴室内の視線のやり場が豊かで、自然素材も心に馴染んだのでしょう。現在の浴室は均質な白い壁が多く、洗い場で座った時に向く方向も決まっています。『SPRINO』では自然素材に倣った壁仕上げやテクスチュアも選べるようにしたり、窓があれば外の景色を、浴槽の水のゆらぎを眺められる濡れ縁のような場を設け、リビングの椅子で寛ぐようなスタイルを促すデザインも採り入れています」(小西氏)。

デザインでは見た目の意匠だけではなく、触感にも心を配っている。「裸足で感じられる畳のような感触の床、操作ハンドルのトルク感やタッチ水栓の手触り。どうすればリラックスの場にふさわしい触感が得られるのか。操作時の音にまで腐心しました」と小西氏は言う。空間を美しく見せるためディテールもきめ細かくデザインされた。風呂好きの日本人にふさわしい、機能や便利さを超えた、新しい次元でデザインされた浴室インテリア空間がTOTOから生まれたと言えるだろう。


さあ横になって食べよう―忘れられた生活様式 (SD選書)

さあ横になって食べよう―忘れられた生活様式 (SD選書)

  • 作者: バーナード ルドフスキー
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1999/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





キモノ・マインド (1973年) (SD選書)

キモノ・マインド (1973年) (SD選書)

  • 作者: B.ルドフスキー
  • 出版社/メーカー: 鹿島研究所出版会
  • 発売日: 1973
  • メディア: -



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