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ポストモダンマーケティング [本/雑誌/文筆家]

忙しい時に限って、面白い本に出会ってしまい、でも原稿の締め切りもあるし、結局睡眠時間を大幅に削ってしまう。もしくは入浴中に読む。こうして梅雨の睡眠不足週間が続いてるのだが、それでも面白い本を読む時間には代えられない。今、読んでいるのは「ポストモダンマーケティング」という本。普段なら素通りしてしまうビジネス書のマーケティングの棚に並んでいた。一応、マーケティングの専門書ということなんだろうけど、実際は偏屈マーケティング研究者のダジャレとブラックなビジネスギャグ満載のエッセイ集という感じ。軽妙だけど少々はしゃぎ過ぎ、真面目か冗談か分からない解説で、現代のマーケティングの周辺にある混乱や嘲笑の理由が浮き彫りにされる。ただし浮き彫りになるだけ。ホントにそれだけなんだけど、それを自覚することこそが大事なのだと思うわけだ。

なぜこんな本を手に取ったのかと言うと、著者のスティーブン(ステファン)・ブラウンの名前に目に止まったからだ。彼は、現在のマーケティングの王道を拓いた「ドクター顧客中心主義」コトラー博士を痛烈に批判する、アンチ顧客主義の急先鋒だ。それは「ハーバードビジネスレヴュー」という雑誌で論争にまで発展したのだが、この手のハイブロウな雑誌には縁がないのでその詳細は知らない。でも彼が番長コトラーに「顧客を甘やかすな」と食いついたことは知っていた。本のサブタイトルには「顧客志向は捨ててしまえ!」とある。中味はとりとめのないケーススタディの列記とスティーブンの皮肉コメントで綴られ、マーケティングのハウツーを期待した人は「何なんだ! これは!」と叫びたくなるような内容だと思う。もちろん怒りの叫び。しかし彼が書く内容は、マーケティング専門書でおなじみのフローチャートにもレーダーチャートにもできない話だから仕方がない。それでも彼の言葉は「消費」の真実に根ざしていることは間違いない。上っ面の言葉ではない。だから面白い。彼と同様の洞察力は、おそらく多くの研究者も持ち合わせているのだと思うが、「王様(マーケティングは)は裸だ!」と勇気をもって言える人がいなかったのだ。あるいは事例があまりに偶発的すぎて気まぐれで、数式化、理論化できないため見て見ぬ振りをしていたジャンル。でもそのジャンルはもう看過できないくらい肥大していたというわけ。
マーケティングは分析ではなく洞察、科学的ではなくて人文主義的という視点は、ぼくが考えていたことにぴったり符合して、読んでいるとこちらの気分も盛り上がってくる。翻訳をしているルディー和子さんは、エスティローダーのマーケティング・マネジャー、出版社タイムのダイレクトマーケティング責任者を歴任されたマスマーケティングの専門家で、彼女が著わしたデーターベースマーケティングの本を一時、熱病のように読んだことがある。データーベースマーケティングは、マーケティングの中でももっとも科学に近い分野だと思うのだが、そんな方がスティーブン・ブラウンの本を訳しているのが面白い。

ポストモダン・マーケティング―「顧客志向」は捨ててしまえ!

ポストモダン・マーケティング―「顧客志向」は捨ててしまえ!

  • 作者: スティーブン ブラウン
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 単行本



現在のマーケティング戦略はイノキのコメントと一緒。表向きには注目されているように見えるが、まともに耳を傾ける人はよほどのバカかよほどの猪木信者。多くの受け手(消費者)は、それもプロレスなのだ(からしかたない)と捉えているかのようだ。発信側の背景や意図はすべてお見通しで、顧客はそれをネタにどう嗤ってやろうか、どう茶化してやろうかと、やる気満々で待ち受けている状況だろう。顧客中心主義とかバイヤーセントリックマーケットとかいう、ありがたいお言葉も「受け身」をとられ、ドリフのギャグになってしまう。そんな時代では「生真面目さ」とか「イノセント」が価値を持つのではないかと思うのだけど、現代のマーケティングは純白には戻れないほど汚れ過ぎてしまった。だから化粧を施すのだろうが、それも消費者には見破られている。まさか、マイケル・ジャクソンが自然に白くなったと信じている人はいないよな。

ぼくはマーケティングは応用芸術だと思う。マーケターは美術館やギャラリーに出向いて、現代美術のさまざまな表現方法を学び、それを鑑賞する人々の声に密かに耳を傾けるほうがいいい。ぼくならそうすると思うけど、プロはどう考えているのだろう。そういえば前にも同じような記事を載せたことがあった。
「マーケティングは応用芸術」
http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2005-05-08

もう一冊、「料理をするとはどういうことか」。サブタイトルは「愛と危機」で著者はジャン=クロード・コフマン。こちらはまだ読んでいないけど「大当たり」の匂いがぷんぷんしてくる。こういうフィールドワークをやりたかった。前に編集に携わっていた「LIVING DESIGN」という雑誌で「愛のカタチ」という特集を組んだことがあるが、今ならもっともっと濃厚な記事ができるような気がする。ピエール・ブルデューを何とか読んだ程度だけど、フランスの社会学って面白うそうだ。


料理をするとはどういうことか―愛と危機

料理をするとはどういうことか―愛と危機

  • 作者: ジャン=クロード コフマン
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本


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ヒロ@七里ヶ浜

この話題のこととは違いますが、やっぱり「GOETHE」の最新号は中田特集でしたね。同じ出版社から単行本が出るのは来月末でしょうか。
by ヒロ@七里ヶ浜 (2006-07-28 13:16) 

hsba

ヒロさん、ご無沙汰しています。お元気でしょうか。
やっぱり「GOETHE」で特集掲載ですね。でも幻冬舎の思惑に反して、ナカタ引退のニュースが忘れ去られがちですね。あまり話題にも上らなくなっている。こんなに早く巷で消化されてしまうとは、ちょっと計算がくるったかも知れません。やはりナカタはサッカーの選手だったから注目されたわけで、多くの人はサッカー選手ではないナカタには興味を持てなかったのでは。また、引退の背後にあるシナリオのあざとさに、みんな薄々気づいていたのではとか、引退から出版までの時間、ネタをひっぱるだけの「中味」がなかったのかもと思ったりします。いちばん気の毒なのはナカタ本人ですが。同情はできませんけど。
by hsba (2006-07-29 00:09) 

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