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ネコの細道/ムナーリ [本/雑誌/文筆家]

ぼくの仕事場は昔はお寿司屋さんだったらしい。西に面して路面に大きなガラスドアがあり、細長い部屋の後ろにはキチネットと裏口のスチールドアがある。この二つのドアを開けると、日陰と植栽が建物のコンクリートを冷やした、ひんやりした風が東から西へと通り抜けて気持ちが良い。風も通るけど、ネコも通る。5種類くらい通る。急ぎ足で通り過ぎるネコもいれば、しばらく滞在するネコもいる。去勢していないオスネコはすぐにスプレーをするので大変だけど、避妊手術をしたメスネコも、5歳くらいになるとスプレーするようになる。ストレスでしちゃうみたいだ。そんなわけでネコが来ると、拭き取り用のウエットティッシュと雑巾と消臭スプレーは、常に手元に置いておかないと面倒なことになる。

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去年、数日だけ立ち寄って、また旅に出た長毛種のネコは、渡り鳥のように今年もやって来て、ぼくが仕事場に入ると一緒に部屋に入り、あとは日がな一日、テーブルの下や椅子の上でお昼寝している。たまに外に出かけることもあるけど、たぶんトイレだな。時々、気がついたように足下にやってきて、お愛想程度の挨拶をして、ゴロゴロと喉を鳴らし、また横になる。で、お腹が空くとネコ缶をひたすらねだる。スゴい食欲だ。たぶんノラネコじゃなくて捨てネコなんだろうな。他のどんなネコが来てもまったく気にする様子がない。むしろ「わが家にいらっしゃい」と目で挨拶している感じがする。家賃は払っていないけど家主なんだな。たぶん。

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クロネコもたまに遊びに来る。このネコもノラネコじゃなくて捨てネコのような気がする。とにかく異常なほどに人のそばにいたがるから。ただしあちこちにスプレーするのはホントにカンベンだ。肉球も黒くて、鍵しっぽのクロネコは福猫で、夏目漱石もクロネコは家に入れて飼っていたらしい。良いことがあるといいんですけどね。中野本町は平和だな。


阿部雅世さんがブルーノ・ムナーリの「ムナーリのことば」を翻訳して、今月始めに日本で出版された。装丁はダイナマイトブラザーズシンジケートの野口孝仁さんが手掛けている。《ムナーリは、「芸術」から「デザイン」まで、また「どうにも活用できそうもないものに価値をみつけること」から「価値をおおいに活用すること」まで、縦横無尽に広がるテーマを提供して、読者のあたまを心地よくこんがらがらせます。そうした上で、ムナーリの言葉は、読者の記憶の中にある、ものごとの真髄を、次々と射抜いてゆくのです》(「まえがき」より)。85歳のムナーリの言葉が、歪んだ心にしみわたる。イタリア語は比喩が多いと言われ、解釈が難しくて、それゆえムナーリの本はへんてこな訳も少なくなかったけど、阿部さんの翻訳はホントに安心して読める。お勧めです。次は「芸術としてのデザイン」を新訳で出版してほしい。

「こどもの城」がオープンした時に、ムナーリが来日して子ども向けのワークショップを開催したことがあった。「LIVING DESIGN」の仕事をしていた頃に、この時にワークショップに参加した子どもたちが、今、どんなふうに育って、ムナーリからどんな影響を受けたのかを追跡取材しようと思ったことがあった。けど、できなかった。「こどもの城」の開館は1985年なので、仮に10歳で参加していたとしたら、今は34歳くらいだ。いちばん忙しく仕事をしている世代だ。ムナーリのことばは忘れてしまったかも知れない。実際はどうだろう。視覚の訓練、視覚とどう思考に組み込むか、ぼくは何も見えていないことに愕然とすることがある。ムナーリの本はいろんな人が翻訳している。「太陽をかこう」と「木をかこう」は須賀敦子さんの訳だ。ハーバードでの講義録「デザインとヴィジュアル・コミュニケーション」は萱野有美さんの翻訳だ。


ムナーリのことば

ムナーリのことば

  • 作者: ブルーノ・ムナーリ
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2009/08/04
  • メディア: 単行本




デザインとヴィジュアル・コミュニケーション

デザインとヴィジュアル・コミュニケーション

  • 作者: ブルーノ・ムナーリ
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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