SSブログ

Gavriel Lipkind インタビュー [美術/音楽/映画]

静寂のオーディトリアム。ネックに頬を近づけて弦を小さく弾く。演奏家は目を閉じて何かを確かめている。調弦というより、眠る子どもの様子を窺う父のようだ。やがて目覚めた子どもの無尽蔵のエネルギーをぐっと抑え込み、ドビュッシーのソナタが暗譜で奏でられる。これがガブリエル・リプキンのリサイタルの幕開けだった。小鳥の吐息さえ表現できる繊細な高音域と、波音のように表情豊かな低音。聴衆は否応なしに、彼と彼が抱える300歳の子ども(楽器はAntonio Garani、1702年ボローニャ)がつくる、エコーの庭園に心を解き放つことになる。

ガブリエル・リプキンは“恐るべき才能”と日本に紹介され、海外の評価は高いが、日本でその才能を知る手がかりは「MINIATURES & FOLKLORE」と「バッハ無伴奏チェロ組曲」の2組のCDだけだった。もちろん、このCDだけでも彼が特別であることは分かる。その未知の才能が、ついに今年初来日し、金沢と東京でリサイタルを行った。リプキンは現在29歳。だが演奏歴はその人生の半分以上を占める。

「幼少の頃、ピアノ教室に通う姉を見て、自分もバイオリンを習いたいと望んだけれど、経済的な理由で難しかった。私が姉の代わりにレッスンに通い始めたのは6歳の時、当時の私はピアノを前にすると、嬉しさのあまりすべてを忘れ2時間半以上ひたすら弾き続ける子どもでした。ある時、自分がその集中を切らして、何かに非常に反応しているのを先生が不思議がり、それが隣から漏れるチェロの音であることに気づき、手を引いてチェロ演奏家の部屋へ連れていってくれたのです。隣室では大男が“大きなバイオリン”を弾いていた。それが私とチェロの最初の出合いでした」

彼は15歳でスービン・メータのイスラエル・フィルでチェロ弓を手にし、その後ミュンヘン・フィル、ボルチモア・シンフォニーや、ジュゼッペ・シノーポリ、フィリップ・アントルモンらの巨匠に招かれ世界を巡る。聴衆は彼の演奏に惜しみない拍手を贈った。「しかし私は“他者”によって自分が規定されてしまう危機感を覚えた。音楽と自分だけの時間を過ごす時間が必要でした」。21世紀を目前にしてリプキンは表舞台から姿を消し、約5年間のサバティカルに入る。山中、音楽と自分だけの孤独な時間は、やがて前述の2組のCDという豊かな果実を実らせた。

「音楽家は依って立つ国籍や文化にこだわってはいけない。それが自分にリミットをつくってしまう。私は何者にも属さない」

「MINIATURES & FOLKLORE」に底流するトレランスな空気は、ロシア移民の子として育ったイスラエルの移民街の記憶だ。当時イスラエルには世界各国から移民が押し寄せた。それぞれの“音楽”を携えて。「音楽には形も色もない。力と感情のエコーだけ」。その純粋さはさまざまな垣根を乗り越え、子どもに老人も伝わるはず。「それが音楽」と、自由な演奏家は控えめに笑った。歴代のチェロ協奏曲の名曲をCD化する10年プロジェクトもスタートする。(「セブンシーズ」2007年8月号)

http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2007-06-03
http://blog.so-net.ne.jp/hashiba-in-stuttgart/2007-01-14



Complete Suites for Cello Solo ( Single Voice Polyphony I ) (Hybr)

Complete Suites for Cello Solo ( Single Voice Polyphony I ) (Hybr)

  • アーティスト: Johann Sebastian Bach, Gavriel Lipkind
  • 出版社/メーカー: Berlin Classics / Lipkind Productions
  • 発売日: 2007/04/03
  • メディア: CD


http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1400236&GOODS_SORT_CD=102

Miniatures & Folklores

Miniatures & Folklores

  • アーティスト: Alexandra Lubchansky
  • 出版社/メーカー: Berlin Classics
  • メディア: CD


http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1359334&GOODS_SORT_CD=102


nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

こんにちはBLUE MAN足の爪がなくなる ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。