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老ネコの死 [その他]

数日前、最年長のノラネコが交通事故で死んでしまった。ぼくのアパートの前の道路。クルマの下にいて、動き出したクルマに轢かれてしまったのだろう。公園で暮らしていればこんなことにはならなかったと思う。前から住んでいる人によると5歳くらいだろうと言っていた。飼い猫なら老ネコという歳でもないはずだ。でもノラネコの寿命は4年程度と言われている。どうか安らかに眠ってほしい。人間じゃないのに人の浮き世に左右される理不尽な生から解放されて、次は温かい家庭か、そうでなければ人のいない密林や無人島に生まれ寿命をまっとうしてほしい。ごめんなさい。

このネコは、最近はぼくの玄関先まで食事をねだりに来るようになって、夜は玄関に上げていた。明け方にドアを引っ掻いて大騒ぎすることが多くて、そのへんはちょっと困りものだった。缶詰しか食べないネコだったのだが、最後の夜は缶詰の買い置きがなくなっていて、ドライフードをあげたけど食べずにまた外に出かけてしまった。次の日、仕事の帰りにカツオとマグロの缶詰を買って帰宅する途中、路上になにか横たわっているのに気づいて、まさかネコじゃないよな、と思って近づくと、まさにその老ネコの命尽きた姿だった。部屋に戻ってどうしたのものかと考え、もと暮らしていた公園に埋めてあげようと思い、古いタオルと段ボール箱を持って表に出た時には、既に誰かが亡骸を取り去っていて、道を洗い流した水の跡が残っていた。その前日、お目当ての缶詰がなかったので、お腹が空いたままぼくの帰りを待っていたのだとしたら何とも言葉がない。せめてお腹いっぱいゴハンを食べた後に神様に召されたならと思う。あの世でも空腹のノラネコのままなら不憫だ。

老ネコが死んだ夜も、いつも顔を出す茶毛のネコはどこからともなく現れて、玄関でゴハンを食べてから段ボール箱に丸まって眠っていた。夜、公園のネコにゴハンをあげに行こうと玄関に出ると、そのネコも目を覚まし、あくびをしながら大きく伸びをして、面倒くさそうにぼくの後を着いてくる。でもこの日はいつもと様子が少し違う。まず鳴き方が違う。そしていつもなら公園まで一緒に行って、他のネコに挨拶して、木陰でトイレを済ませて、帰り道もまた一緒で部屋まで着いてくるのに、この夜は公園に行く途中でふと姿を消してしまった。そのうち追いついて公園にやって来るだろうと思っていたが、この夜から今まで姿を見ていない。

不思議なことに公園のネコも様子や鳴き声が普段と違っていた。老ネコが死んだことを知っているのだと思った。公園からの帰りに、馴染みの白ネコが途中まで見送りしてくれるのだが、その白ネコは老ネコが事故に遭った場所まで来ると、そこから離れようとしない。その場所にはもう何も残っていないのに。そしてぼくのほうを見て、いつもと違う鳴き方で声を上げる。茶毛のオスネコもシッポだけ茶色い白ネコも、二匹とも老ネコの曾孫に当たる。

いつもなら夜は茶毛とその曾祖母の二匹のネコが玄関で寝ていて、夜半に突然ドアを開けてリビングに入ってきたり、扉で爪を研いだりしていたのに、この数日の夜は静かなものだ。扉を半開にして食事と水を用意していても、鈴を付けた飼い猫が夜食に立ち寄るだけ。夕暮れ時、茶毛のネコが隠れていそうなところを選んで散歩するのだけど、どこからか現れる様子はまったくない。また旅に出てしまったのだろうか。ノラネコには、ぼくたちには分からないネコ同士の社会や情報ネットワークがあるのだと思う。生きている者と死んでしまった者との違いも、ぼくらの世界ほどはっきりしていないのかも知れない。ぼくが暮らす、人間が造り上げた人工物で埋め尽くされたこの街には、実はいろんなレベルの生き物の社会が潜んでいて、ぼくが知っているご大層な人間社会はほんの一部に過ぎないのだろう。ノラネコにしてみれば世界を人が造ろうが神が造ろうが、建築物と山の違いも、草原と庭の違いも無関係。生まれつき与えられた環境に過ぎない。人の都合で飼い馴らされ、人の都合で捨てられても、ぼくらと同じ街で同じように生きている。本当は文句の一つでも言いたいところなのかも知れないけど。


雨が続くと公園でゴハンをあげる人もいなくなる。ノラネコはどこで雨宿りしているんだろう。公園に去勢避妊手術を受けていないネコが数匹集まってきたので(手術したネコは耳に小さな切り込みを入れている)、人間の勝手で申し訳ないのだが、そろそろ捕まえて病院に連れていかないといけないと思う。そうしないとどんどん増えてしまうからだ。公園でゴハンをあげると近所のノラネコが集まってくる。生ゴミをあさることはしなくなるけど、食後にそのまま公園の植え込みや地面の掘り起こしやすい場所をトイレ代わりにするので、夏場は糞尿の悪臭が漂うようになる。確かにこれでは小さい子どもは公園で遊べないよな。ネコを不快に思う人もいるだろう。こういう問題を他ではどうやって解決しているのだろうか。かく言う自分もネコアレルギーで、長時間、部屋で一緒にいるのは無理。ネコとの付き合い方は難しい。


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