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挨拶 [その他]

近所を歩いていると人からはあまり挨拶されないけど、ネコからはよく挨拶される。
駐車しているクルマの下にいたり、垣根の上を散歩中だったり、鈴を付けた家ネコからも顔なじみのノラネコからも「にゃー」とか「にー」とか声がかかる。お愛想だけのネコもいれば、何かを言いたげな目のネコもいる。キラキラした目でこちらを振り返りながら、急に走り出して「オラのあとをついてこい!」みたいな雰囲気なんだが、おまえが駆け込んだ苔だらけの暗くて狭い路地は人間には入れないんだよ。本当は後をついていきたいのだけど、人間で申し訳ない。そのネコはぼくをどこに連れていこうとしたのだろう。

近所のネコの中でいちばん気安い茶色のノラネコ(1.5歳)は、通りで出会すと大げさに駆け寄ってきて、足下に頬ずりを始め、たまに遊びでスネに噛み付いたりする。歩く足下に遠慮なくまとわりつくものだから、注意して歩かないと踏みつけてしまいそうになる。ノラネコらしい毅然としたところがなくて、ちょっとアタマを触るだけで喉をぐるぐる鳴らしたりして、沸点はかなり低い。どんなドライフードでも喜んで食べる。それにしても、どうして歩いている人間がぼくだと気づくのだろう。足音で分かるのかな。ネコはたいてい予期せぬところから突然飛び出してくる。工事現場の金網越しに見つけられた時は、こちらの姿は見えるのに金網が邪魔して出られないので、パニックになって近所のネコが心配して集まってくるほどの大騒ぎになったこともあった。このネコはここのところ毎日8時頃になると玄関ドアの前にやってくる。ノラネコなのに家の中が好きで、とりあえず玄関まで上げて、ゴムバケツの中で静かに寝ていると思ったら、突然扉のレバーハンドルにぶら下がり、勝手に部屋に入ってきて、ソファの片隅でまたすやすや寝始める。ノラネコにあるまじき緊張感のなさだ。ぼくはネコアレルギーなので長時間いっしょにいるとくしゃみが止まらなくなる。だから申し訳ないんだが途中で外に出てもらうんだけど、家から出る時に明らかに何かぶつぶつ文句を言っている。先日はお礼にしっぽの切れたヤモリを靴の中に置いていってくれて、ネコのサプライズギフトはホントにサプライズなんだよな。



この茶色のネコは、まだコドモの頃に公園で、器に顔を突っ込んで鼻をふがふが言わせ、一心不乱にゴハンを食べている時に、ひょいとつまみ上げて膝に乗せたのが付き合いの始まりだ。他の空腹のネコが引くくらいの食欲で、また食べ過ぎで吐いちゃうんじゃないかと思い、強制退去させたわけだ。まあ、ノラネコは食べられる時はいつも食べ過ぎだけどね。最初は人間の膝に乗っているという状況がよく分からなかったみたいで、しばらくそのままじっとしていて、ふと我に帰り、慌てて膝から飛び降りると、すごい勢いで訳もなく木を上ったり下りたりしていた。あれは恐怖の表現だったのか喜びの表現だったのか。その後、ぼくを見かけると自分から膝によじ上るようになり、子ネコのくせに人を怖がらない様子を他のノラネコに自慢するようになった。人間の都合で恐縮なのだが、去勢手術も済ませたので一代限りだ。普通のネコのように「にゃー」と鳴くことができず、「ぴーぴー」とか「きゃっきゃっ」と鳴く。親ネコも同じ鳴き方なので生まれつきなのだろう。

何にでも興味を示す。写真を撮ろうとするとこんな感じになる。


去勢はしていてもオスなので放浪癖があり、突然姿を消して、最近見かけないので交通事故に遭ったんじゃないかと心配すると、ふと、どこからともなく現れて、またしばらく家に居着いて、そしてまたいなくなる。そして忘れた頃にまたやってくる。今日は「一生この家で暮らします」という顔をしていて、明日には旅のネコになる。別宅があって、そこではまた別なネコを演じているのかも知れない。

公園のノラネコの世界はちゃんとした社会があり、それなりにルールもあるように見受けられる。ニヒルなネコもいるし能天気なネコもいるけど、よそ者もちゃんと受け入れて、捨て子を代わりに育ててあげたりするネコもいる。一応仲間のことを気づかう様子も窺える。諍いも少ない。統率するボスネコがいるわけじゃないのにうまくいっているのは、たぶんゴハンに困らないからじゃないかと思う。それでも家で飼われるネコに比べるとストレスは多く、ノラネコの寿命は5年くらいと言われている。世代交代も早い。毎日のように顔を合わせていたのに、ある日を境に二度と姿を見かけなくなったネコも何匹かいる。最後に見るのはなぜか後ろ姿で、こちらのことは意に介さず、とことこと神田川沿いの遊歩道を川下に向かって歩いていく姿だ。あのネコたちはどこを目指して歩いていくのだろう。夜半、遊歩道の濡れた土の匂いの後ろのほうに、かすかにクチナシの甘い香りが残っていた。花はどこで咲いているのか。探してみたけど、周りにあるのは紫陽花だけだ。雨上がりの夜の川は流れがいつもより静かだ。今年も夏が始まってしまったな。

犬を飼う

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  • 発売日: 1992/10
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ノラや

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