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バスに乗っていこう。 [その他]

iTunes Storeでビージーズの曲(Night Fever)を探して、アルバムを購入したらThe Bee GeesじゃなくてThe Gee Beesだったよ。うわー! カヴァーかよ。試聴してビージーズだと思い込んでいた。確かにNight Feverを歌っているけど、つまりはグッチ裕三が歌ってるのといっしょじゃん。返品とかできないしなあ。これは売り手に悪意はなくて、ぼくの不注意だったのだけど、そのうちわざと紛らわしい名前を付けて、間違えて買わせる配信ビジネスを考える人が出てくるかも知れないな。以前「突然段ボール」のCDを買ったつもりで、家に帰って袋を開けてみたら「突撃ダンスホール」っていうイカ天バンドのCDが転げ落ちて脱力したことがあった。子どもの頃買ったアニメの主題歌のシングル盤を聴くと、テレビとは違う知らない歌手が歌っていたことがあった。なぜか数日前どうしても聴きたかったBoney Mの曲もカヴァーしか見つからない。どんな世界でも本物を探すのは大変なんだね。


風が冷たい日が続いている。近所のドラッグストアでの買い物を終えて帰宅して、お湯を沸かして白樺のエリキシールを飲む。それからiTunes StoreでダウンロードしたPenguin Cafe Orchestraをかけて、買ってきたばかりの洗剤の箱を開けて洗濯をした。
この頃いつも、知らない間に夜が来る。買い物の帰り道、空を見上げると闇夜に少しだけ青空と雲が透けて見えて、刃物のような三日月がぴかぴかに輝いていた。寒月が明るく見えるのはなぜだろう。神田川の橋の手前で立ち止まる。月のまわりに浮かび上がる雲が、なんだか秋の雲みたいだなと思ったけど、今はもう冬じゃないか。だからこんなに寒いんだよ。とアタマの中で自分に言い聞かせると、顔見知りのノラネコが足のまわりをぐるぐる回っていた。橋の下からカモの鳴き声もする。なんだかため息がでるよな。

ぼくのアパートから町に出かけるには4つの方法がある。
一つは新宿か中野まで歩く。これはちょうど良い散歩になるので、時間があるときや暇なときはできるだけ歩く。西参道から参宮橋、神宮内苑の森を抜けて原宿まで歩く事もある。これはホントに暇なときだけ。あとは中野坂上駅から丸ノ内線か大江戸線に乗る。駅までは10分もかからない。大江戸線の西新宿五丁目駅もよく利用する。こちらはアパートからノラネコ公園の脇を通って神田川を渡り10分強。エスクァイア日本版の編集部は青山一丁目にあるので、仕事のときは西新宿五丁目駅を使うことが多かった。4番目の方法は弥生町のバス停から京王バスで渋谷に出るというもの。バス停までは地下鉄の駅よりは近いけど、やっぱり徒歩10分くらい。いや、そんなにかからないかな。山手通りの神田川の橋を越えるとすぐにバス停があるから。でも、この辺りは首都高速道路の地下工事の都合で、バス停の位置がよく移動するので、場所が分からず、後ろからバスが迫っているときなんかは、最後の数秒が読めくて、頑張って走ったけど間に合わなかったことが何度かあった(最近はまた固定されています)。


それでも地下鉄に乗るよりバスが好きなので、京王バスを利用することがいちばん多い。渋谷までは約30分。バス停の前には「カッフェアロマティカ」があって、ランチタイムが終わりそうな時間帯にバスを待つときは、コートのままエスプレッソを立ち飲みでいただくこともあった。素敵な女性がバリスタを担当している。コーヒーもとても美味しい。砂糖を少し入れてきゅっと飲むと不思議とすっきりして、何か良いことがありそうな気分になる。かなり昔の歌だけど「コーヒールンバ」のアラブの王様といっしょだ。単純なんだな。で、300円を置いて魔法がとける前にバスに乗る。そんなこともあってバスの移動が気に入っているのだと思う。自宅に帰るときにはバスを使うことが圧倒的に多い。渋谷の東急プラザ前のターミナルに中野駅行きのバスが着く。東プラの地下でタイムセール中のお惣菜を買って、1階のコージーコーナーでお菓子を買ってバスに乗り込む。

バスの中ではiPodで音楽を聴いていることが多い。外の景色や乗降するいろんな人の様子が目に入って、音楽と場面がシンクロすることがあって面白い。個人的には雨の夜のバスが好きだ。そんな日に後ろの席に座ると、映画館の席に座っているような感じがする。最後は乗客が自分ひとりになることもある。そんな時はドイツにいた1年間、毎日のように利用した92番バスのことを思い出す。孤独は闘うものではなくて、楽しむものなんじゃなかなと最近思う。

最近のiPodのヘビーローテーションはバッハのチェロ。柄にもなくクラシックを聴いているのは、一昨年、ドイツのアーティストインレジデンスで、最後の3カ月間いっしょだったチェロ奏者のガヴリエル・リプキン Gavriel Lipkindが自身のCDを送ってくれたからだ。当時ドイツでは彼の演奏を聴くことはなかったので、ぼくはこのCDで初めてガヴリエルのチェロを聴いた。演奏中の息づかいまで聞こえる渾身の力作という感じで、聴いていると、もうアタマの中が真っ白になって、カラダが自然に揺れ始め、海の波がどんどん大きくなるように鼓動が高まっていくのが分かる。悲しくないのに涙が出そうになる。ぼくは素直に、こんなスゴイ人といっしょに時間を過ごしていたことを知り、自分がますます小さくなるような思いがした。何かお返しをしなければと思うけど、残念ながら今のぼくには何もお返しできるものがないことが、悲しかった。このときは本当に涙が出た。今の自分には何もない。このままではいけないと思うけど、焦りからはあまり良いモノが生まれないことは、自分でもよく分かっているつもりだ。しかし元来怠け者のぼくは時を待っているだけで、冬の太陽が知らない間に沈んでいるみたいに、あっという間に年老いてしまいそうだ。こうして40代半ばの大人にあるまじき悶々とした思いを、胸に抱くというより両肩に載せたまま運命の2007年が始まってしまった。まあ、そんなことはどうでもよくて、ガヴリエルのCDをぜひ聴いてください。ウェブサイトで試聴もできます。

Bach: Cello Suites

Bach: Cello Suites

  • アーティスト: Johann Sebastian Bach
  • 出版社/メーカー: Berlin Classics
  • メディア: CD


http://www.lipkind.info/

完璧なパッケージ&ジャケットデザインは、これもぼくやガヴリエルと同時期にフェローだったベルリン在住のグラフィックデザイナー、カロリン・シュタインベックが手掛けている。CDの中に入っている小冊子のグラフィックデザインはまさに完璧。何から何まで大人のデザインだ。ぼくは彼女のことをとても尊敬している。ドイツでこういう出会いがあったことは、ぼくの宝物だ。http://www.carolynsteinbeck.de

ドイツではバスに乗ると運転手が必ず「グリュスゴット!」と挨拶をしてくれた。だからぼくも「グリュスゴット」と答えるか「アロー」とか「グーテンターク」とか自然に口から出ていた。その癖が残っていて、東京でバスに乗るときに「こんにちは」と運転手に挨拶してしまうことがある。間違ったことをしているわけじゃないけど、少し恥ずかしい。無視されるとさらに恥ずかしいね。


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